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北浜M&A通信
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「コインチェックのM&Aが拓くもの②」
~必要に迫られての「アーンアウト」は「三方よし」に繋がるか(第29回)

 前回に続き、マネックスグループ(8698)によるコインチェックの完全子会社化に際して活用した、「アーンアウト」、即ち、売り主が所有している対象企業の株式を、買い主が対価を支払って取得する取引に先立ち締結する契約において、「その対価の支払いの一部をあらかじめ合意した条件にて算定し支払う合意」を行う手法の話です。

 アメリカでは一般的と言われるこの手法が日本ではほぼ初めてなのはなぜか、を考えていきたいと思います。
アーンアウトについて検索してみると、いろいろな解説がなされています。採用されない理由として何人かの著者が指摘しているのが、「売り主は売却時点にすべての対価を得る事を希望し、結果的に分割払いのようになってしまうのを嫌がるから」というものですが、条件設定をうまく行うことができ、買い主が信用のある会社であれば、売り主がこれを厭う理由はなく、これは的を射ていないと思います。強いて言えば、対価の絶対額を成功報酬に反映するM&A(企業合併・買収)アドバイザーが報酬の減少と後々の調整事の発生リスクを回避したがる結果、というところでしょうか。
 
 今回のケースでは、M&A成立後の「当期純利益」を指標としています。「粗利益」でもなく「営業利益」でもない「当期純利益」であれば、もし、買い手が支払額を低下させることに強いインセンティブを有し、送り込んだ経営陣をして、コストコントロールを行うなど最終権限者としての独断専行を実施させるならば、売り手は指をくわえて見ていることしかできません。そしてそれは、「粗利益」や「営業利益」を指標としたとしても、収益の操作を絶対に回避する方法はない、という意味では同様のこととなります。

 そういう訳で、アーンアウトを設定するにおいては、それらに対応するための決め事をきめ細かく株式譲渡契約書に盛り込まねばならず、それが、悪意のない買い手による常識的な自由裁量をもって経営するための足枷となる可能性を有することは勿論、その複雑なプロセスで交渉決裂につながってしまいかねない、という懸念もあり、国内M&Aでは、「成立後の事を考えれば、精一杯交渉はするが、複雑化することを回避し、金額を確定させてしまおう」という結論でまとめられてきたのではないでしょうか。

 コインチェックのケースでは、その事業継続と発展に不可欠な「役職員のモチベーションの維持」と「改正資金決済法に基づく仮想通貨交換業者への登録」を可能とするマネックスとの取り組みの実現は不可欠ではあるものの、成立後も会社に残りインセンティブが継続する役員株主二人と、成立後には何の権利も有さなくなる投資家的立場の株主が混在していた以上、業績の振れ幅が余りにも大きく、企業価値の確定が困難を極める中、複雑な方程式の解は、これしかなかったのでしょう。

 必要に迫られてのアーンアウトですが、世間が注目する取引ということもあって、利用する実益とともにこの手法が認知されたことは間違いありません。M&Aを検討する企業やM&Aアドバイザーが、企業評価などのギャップを埋めきれずに、従来断念されていた取引がこれにより成立するならば、さらなるM&Aの活性化が期待できます。そのためにも、コインチェックが利益を生み、「三方よし」の結果となることが期待されますね。

 次回は、アーンアウト手法が活用されるのではないか、と私がにらんでいる業界とその理由についてお話を続けていきます。


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